Silent invasion(クライブ・ハミルトン)

Silent invasion

「Silent invasion」とは、静かな、無口な、などとの意味の「silent(サイレント)」と、侵入、侵略、侵害、などとの意味の「Invasion(インベージョン)」で、「静かな侵略」というような意味となります。

中国共産党の狙いは米豪同名を破壊して、オーストラリアを中国の属国とするよう浸透工作を仕掛けています。

この本では中国共産党の工作活動について、登場人物の実名もあげながら、現実に起きていることを詳細に書いています。

オーストラリアの元首相や元外相の名前も出てきますし、在シドニー中国領事館の政務一等書記官であった人物の名前も出てきます。

中国共産党のやり方を知ることのできる一冊です。

中国共産党の物語

こんな話を本気で信じでいる人が中国にはたくさんいます。

中国は外国列強の手によって百年の屈辱を受けた。
十九世紀半ばのアヘン戦争から百年間にわたって、中国は外国人によって脅され、屈辱を受けた。
封建的な支配者は腐敗していたが、多くの勇気ある中国人たちは国を守るために命を投げ出した。
中国共産党は帝国主義者との戦いを先導し、一九四九年には民族を開放した。
そして、中国共産党が世界で最も偉大な文明として中国が復活する道をつくったのだ。

短くまとめると、「外国に受けた屈辱を決して忘れず、中国共産党が作った偉大な文明としての道を進み、世界を支配するのだ」というストーリーです。

このストーリーによって、中国人は自国に対しては愛国心を、逆に外国に対しては強い復讐心を持っています。

中国共産党の最終目標

中国共産党の最終目標は、経済、軍事、国際政治のあらゆる面においてアメリカを凌駕し、世界一の国になることです。

つまりは、全ての国が中国共産党のご機嫌を伺い、中国共産党の言う事を聞く存在にしようとしています。

経済的な浸透工作、メディアを使った宣伝工作、サイバー攻撃による機密情報の奪取、圧倒的な軍事力による脅しはそのための手段に過ぎません。

中国共産党によるオーストラリアへの浸透工作

中国共産党は戦略的な計画に沿ってオーストラリアへの浸透工作を実行しています。

天然ガス供給の契約250億ドルがオーストラリア浸透工作の始まり

ジョン・ハワードは第25代オーストラリア首相(1996年3月11日 - 2007年12月3日)です。

2002年8月、オーストラリアは激しい競争の中、広州省に天然ガスを供給する契約を勝ち取りました。

彼は他の誰よりも江沢民と会っていました。そして、ダライ・ラマとの会談を拒否するなどして、250億ドルに飛びついたのでした。

当時、オーストラリアはアメリカに同調していましたが、それを中国に振り向かせるために、経済的手段が有効であると北京に判断されたため、最安のインドネシアではなく、オーストラリアに決定されたのでした。

これ以降、中国共産党はオーストラリアに対して経済的な手段を使うようになります。

シドニー工科大学への浸透工作

2005年シドニー工科大学は美術展覧会に法論功に関連する展示があったとして、中国政府から直接圧力を受けました。

中国国内から同大学へのWebサイトの閲覧がブロックされ、中国からの入学希望者が激減してしまいました。

そして、2014年5月にシドニー工科大学は黄向墨ホワン・シャンモから「豪中関係研究所」の設立目的で180万ドルの寄付を受けています。

この研究所では、中国政府に対する一切の批判は禁止され、発表される論文はオーストラリア国内における中国共産党のプロパガンダに使われています。

自らを振り向けば、日本の大学は年々その競争力を落としており、定員割れを起こしている大学も多数存在します。このような環境は中国共産党からすれば、良いターゲットと思われているでしょう。

主要メディアへの浸透工作

中国共産党中央政治局のメンバーの一人で、党中央宣伝部部長であった劉奇葆りゅうきほうという人物がいます。

彼は2016年5月のオーストラリアに滞在中、主要メディアとある合意を交わしていました。

中国共産党から提供される資金と引き換えに、新華通信社、人民日報、チャイ・ナデイリーのようなメディアからの中国の宣伝を発行するものでした。

フェアファックスとスカイニュースは、中国のニュースストーリーを掲載したり放送することに合意しています。

シドニー・モーニング・ヘラルド紙、ジ・エイジ紙、オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー紙は、チャイナ・デイリーが提供する毎月発行の8ページに渡る折り込み記事を掲載することに合意しています。

西洋諸国のオープンな制度を利用している点、主要メディアの財政状況の悪化に目を付けられたという点、そしてこの合意について何ら反対がなかったという点は、日本も他人事ではいられないでしょう。

オーストラリア内の中国の第5列

第5列とはオーストラリアの中でも特に、中国との経済関係により成長した財界のエリートたちを指します。

彼らは無意識のうちに北京に忠誠を誓ったかのような行動を取り、オーストラリアの主権を内側から脅かす存在となっています。

オーストラリアの未来は中国との経済関係に掛かっていると信じ、それ以外の事柄は無視されてしまいます。

第5列の言うがまま突き進んだ先にあるのは、中国の属国になってしまうという未来です。

中国の影響力工作は世界に向かっている

上記に書いた内容はほんの一部です。他にもたくさんの事柄が『Silent invasion(クライブ・ハミルトン)』には書かれています。

遠く離れたオーストラリアでもこれだけの工作が行われているのですから、当然ながら、わが日本も中国共産党の標的となっています。

2010年、日本へのレアアース輸出禁止

概要はこんなところです。

2010年9月7日、尖閣諸島沖で操業していた中国の漁船に対して日本の海上保安庁の巡視船が退去するように要求したところ、漁船が巡視船に体当たりする事件が起きた。海上保安庁は漁船の船長を公務執行妨害の疑いで逮捕し、検察に引き渡した。
その数日後の9月23日、新聞各紙は中国が日本へのレアアース輸出を禁止したと報じた。
中国の温家宝首相は、尖閣諸島沖での衝突について、日本側が中国漁船の船長を釈放しなければ、一段の措置を取るとけん制した。

悪いのはこの中国漁船で、日本の海上保安庁は何も悪くありません。

しかし、日本はこの船長を釈放してしまいます。

9月24日、那覇地方検察庁が勾留延長期限が5日残っている時点で、「わが国国民への影響や、今後の日中関係を考慮して、船長を処分保留で釈放する」と発表した。

世界はレアアースのほぼ全てを中国に依存しています。日本だけではなく世界中どの国であっても、将来的にレアアースをどう確保するかというのは頭の痛い問題です。

韓国が受けた報復措置

アメリカは韓国の要請を受けて、2017年3月に弾道ミサイル防衛システムTHAADの設置を開始しました。

中国はこれに対して43件もの報復行動に出ました。

中国国内にあるロッテのデパートは暴力的なキャンペーンにより閉店させられ、韓国製の化粧品や電子機器の輸入が禁止され、K-POPの公演は中止されました。

また、韓国の旅行業界は中国の団体旅行がなくなり、旅行客が85%も減少したと報告されています。

ザンビアの悲痛

ザンビアの野党党首、マイケル・サタが2007年の時点でこのような発言をしています。

「われわれは中国に出て行ってもらい、古い植民地時代の支配を回復して欲しいと願っています。少なくとも西洋の資本主義には人間の顔が見えますが、中国のそれはわれわれの収奪しか考えていないからだ」

ギリシアの裏切り

2017年6月、ギリシアは中国が反体制活動家への迫害を非難するEU決議に対して拒否権を行使しました。

このギリシアの裏切り行為はEUに衝撃を与えました。この事態はEUにとって非常に不名誉なことでした。

EUといえば、国連憲章に定められた人権擁護の精神、公平な裁判や報道の自由、LGBTなどのマイノリティへの権利侵害に対して、どこよりも声を上げてくれる存在でした。

ではなぜ、ギリシアは裏切ったのでしょうか?

理由はこれも単純で、中国による莫大な投資がギリシアに行われていたからです。

ギリシアは財政破綻によりEUに押し付けられた緊縮財政に苦しんでいました。そこに中国は漬け込んだのです。

アメリカにいる中国共産党の工作員

ある元FBI対諜報官によれば、中国は米国内にすでに25,000人の諜報員を忍び込ませ、15,000人の情報提供者をリクルートしている、といわれています。

え~と、では、日本には何人いるんでしょうか?

これは自らの自由を守る戦いである

筆者(クライブ・ハミルトン)が『Silent invasion』を書き始めたころは、そうでもなかったようですが、時が経つにつれて、北京のオーストラリアへの工作は次第に機能するようになっていったそうです。

今の日本において、中国の工作を強く感じることは多くないですが、このまま放っておけば、オーストラリアの二の舞になるかもしれません。

北京に抵抗しても無駄だと信じ込む人々

以下、本書の記述を引用します。

なぜオーストラリアのエリートたちは、北京による支配に抵抗しても無駄だと信じ込んでいるのだろうか?
それを証明する最も良い概念が「服従」と「自己利益」である。
そこには「中国の台頭は誰にも止めることは出来ないし、われわれの経済の運命は北京の手に握られており、中国の規模を考えれば、彼らがアジアを支配すべきだ」という考え方が浸透している。
したがって、この歴史の流れに乗ってしまうのが最良の選択ということになる。
なぜなら、われわれには他に選択肢が何も残されておらず、実際はそれほど悪いことでもないかもしれないからだ。

これは思い当たるところがあり過ぎて少し怖くなりました。私も数年前までは中国に逆らっても、日本は勝てっこないと思い込んでいましたから。

アジア民主国家同盟をつくれ

筆者は、日本、インド、韓国、インドネシア、ニュージーランド、オーストラリアという民主国家をまとめ、アメリカとのバランスの取れた同盟を形成できると述べています。

この同盟は地域の民主的な政治体制による自由主義を強化する方向で作用し、北京の体系的な主権の侵害に対抗し、同様の目的で戦略・軍事の面で協力関係を構築できるはずであると。

Quadとは 日米豪印の4カ国で中国対抗

構想は安倍晋三首相が2006年に4カ国の戦略対話を訴えたのがきっかけでした。

第2次以降の安倍政権で2017年に局長級会合、2019年に外相会談を開き、2021年3月に初めてオンラインで首脳協議が実現しました。

中国共産党には好き勝手やらせないことが大切です。適度な距離を保ちつつ緊張感のある外交を続けていく必要があると考えます。